日経ビジネス 2010年3月号
媒体名 :日経ビジネス(日経BP社発行)
掲載号 :2010年3月1日号
掲載企画名 :心と体 診察室
記事タイトル:悲しくないのに涙が出る
掲載ページ :P.82
涙が止まらない流涙症
監修:矢部比呂夫 [東邦大学医療センター大橋病院(東京都目黒区)眼科准教授]
悲しくもないのに涙があふれて止まらないGさん(51歳)。ハンカチで涙を拭っ
てもおいつかず、視界がぼやけて、書類を読むのもひと苦労している。
涙は、眼の表面を潤して乾燥を防ぐという大きな働きがある。それだけでなく、眼に酸素や栄養分を補給したり、眼についたゴミや雑菌などを洗い流し、異物の侵入から眼を守るといった重要な役割も担っている。眼の表面は涙で覆われており、人が起きている間は常に涙が流れ、1日0.6ml~1mlくらい分泌されるのが通常だ。この涙が少なすぎると「ドライアイ」に、多すぎると「流涙症」となる。
眼表面を潤したあとの涙は、目頭付近にある「涙点」より吸い込まれ、「涙小管」を通って目頭の奥にある「涙のう」にいったんたまり、さらに「鼻涙管」を通って鼻の奥に流れ去る仕組み。この一連の通路を「涙道」という。多くの流涙症の原因は、この涙道の一部が細くなったり閉じたりすることで起こり、涙嚢より上流で閉塞すると流涙症を、下流で閉塞すると流涙症にくわえ、涙のうに膿がたまる「涙嚢炎」を引き起こす。その他、アレルギーや異物の刺激などで涙の分泌が増加して、流涙症になるケースもある。
流涙症になると、正常な視機能があっても、涙で視界がぼやけたり、メガネのレンズがくもったり、目やにがたまりやすいなど生活に支障が出るうえ、涙が止まらないのでハンカチが手放せないなどの不便さを強いられることも。そんなときは、眼科を受診することをおすすめする。
診察では、顕微鏡で眼の表面の様子や涙のたまり具合を観察したあと、涙点から細い管を入れて生理的食塩水を流し、鼻へ正常に流れ込むかを調べる検査も行う。軽度の流涙症なら、眼の知覚を鈍くして涙を出しにくくする点眼薬が処方されるだろうが、涙道の閉塞が強い場合は涙道再建術などで涙の流れを改善する必要になることもある。
ドライアイも誘因のひとつに
涙道閉塞の治療は、場所や閉塞してからの期間によって異なる。早期であれば、「ブジー」という針金状の器具を涙道に通すだけで治ることもある。重症の場合は、閉塞した部分をシリコンチューブで広げて再疎通させる方法や、別に新たな涙道を作るバイパス手術(涙のう鼻腔吻合手術)を行うが、一般的にはバイパス手術のほうが長期成績はよいといわれている。
涙のう鼻腔吻合手術とは、涙のうから隣接する鼻腔に小さい穴を開けて、ここに永久的な新しい涙道を作るというもの。以前からあった、顔面の皮膚を1.5cm程度切開する「鼻外法」と、皮膚は切開せずに鼻から内視鏡を入れて行う「鼻内法」がある。術後の炎症などが軽い鼻内法が最近の主流だ。
8割以上の人が1回の手術で完治するが、アレルギーがあり、鼻炎などを起こしやすい人は、再発する可能性もあるだろう。
パソコンなどで眼を酷使しているビジネスパーソンは、特に流涙症には注意してほしい。パソコンに熱中して、ジーッと眼を見開いた状態が続くことがある。すると眼の表面が乾いて傷がつき、その刺激で反射的に涙の分泌量が増加することがあるからだ。また、ドライアイで眼の表面が傷つき、その刺激で流涙症になる人も少なくない。
予防するためには、意識的にまばたき(瞬目)をしっかりするよう心がけるといい。
まばたきは眼瞼を開閉するごとに新しい涙を眼の表面に拡散させ、古い涙を涙道へ流すというポンプ作用があり、眼表面の潤いを一定に保つために重要なのだ。
ジムなどでプールに入る機会の多い人は、水の中に含まれる塩素の刺激でこの病気になることも。プールから上がったら、点眼薬でよく眼を洗うように習慣づけておこう。
水道水で洗うことの弊害も言われている。
大事なことは目の定期検診をする事で、流涙症に限らず、緑内障などの年齢を重ねるにつれて増えてくる眼の病気に備えることは、今から始めるべきです。