5月, 2023年

世田谷区医師会報 『年男の優先順位』

2023-05-25

『年男の優先順位』 耳鼻科・眼科 水車橋クリニック 矢部比呂夫

 

 子供の頃は規則・ルールを押しつけられるのが苦手なタイプであったが、大人になってからは(かなり久しいが)自己責任でルールを決め、優先順位を決めて端から順々に片付けていくことが習慣となってきた。年末年始の過ごし方を例にとると、以前に海外で味気なく過ごした苦い経験があるため、最近は自分の好きなように準備をして自分流で新年を迎えている。まず、年越し蕎麦は自分で手打ち蕎麦を打ち、約1.5kgのローストビーフを決まったレシピで焼いてソースをつくりいただく。初詣の後に親からの流儀の雑煮を食べ正月気分を味わって、3日ごろから南方へゴルフ旅行に出かけるという決まったパターンで最近は過ごしてきた。
 初詣は自分の気力・体力を確認するために自宅から原宿の東郷神社まで以前はランニング、最近はウォーキングで行き、お参りして東郷神社の「勝守」という斬新なデザインの御守りと破魔矢を手に入れてくる。神社境内にはその年の男女の厄年が掲示されているが今年は何と、男は62歳までで、自分の今年72歳の案内はないことに愕然とした。考えるに昔は平均寿命からいっても72歳まで生存するのは希なケースで厄払いの対象にならないのか。もういつ何が起こっても不思議はない年齢と言うことか。この年まで生きて来られたことに感謝するものの、一種の寂寥感を感じつつトボトボ帰宅した。


 50代半ばから始めたマラソン大会出場も世界6大マラソンを含む海外15大会を完走することができたが、これもリストアップした大会を端から片付けて、手に入れた完走メダルをクリニックに並べようという几帳面な気持ちが原動力になった。(詳細は本会報に「世界マラソン紀行」「世界ゴルフ紀行」として掲載していただきました)異国の地で42.195㎞、26マイルという途方もない距離を走りきる肉体的な厳しさはやったものでしかわからないが、精神的には自己責任できめた完走という目標に向けてスローランナーであるものの淡々と腕に付けた脈拍計と相談しながら一つ一つ関門を通過していく、いわば小さな幸せを積み重ねる達成感が味わえた。
 ゴルフも世界東西の有名リゾートコースが掲載されている「世界のゴルフリゾート」という本に掲載されているゴルフコースを全てプレーしようと決めて、友人と競って10年近くをかけて踏破した。次いで全英オープン開催コース10コースを全て踏破しようと目標をたてて、毎年ゴールデンウィークの時期にスコットランド、アイルランドに遠征した。5月頃の現地は冷涼で、厳しい天候の日が多かったが、妻に付き合ってもらい達成した。国内でも井上誠一の「遙かなるスコットランド」という本をもとに彼の設計したコースをほぼ踏破した。


 日常診療でも、患者様とあれこれお話しながらすすめる外来診療よりもマイペースで施行できる手術の方が楽しい。眼科手術は微鏡下手術と内視鏡手術の進化により術者としての寿命は格段に延びたが、小生もいまだに年間200から300件近くの手術をこなしている。大学を卒業する際に耳鼻咽喉科医の父から「大きな外科系にいっても開業するときは宗旨替えして内科的なこまかい診療をすることになるからマイナー科の方が生涯同じペースでできるよ」とのアドバイスをもらったが、70歳を過ぎた今こそ父の慧眼に感謝している。特に当院での売りの一つは高齢者に多い涙嚢に膿が溜まってくる涙嚢炎に対する経鼻的な涙嚢鼻腔吻合術であるが、これはまさに耳鼻科・眼科を標榜する当クリニックに適した眼科と耳鼻科との境界領域の手術である。
 長女が耳鼻咽喉科の医師なので高度の鼻中隔彎曲症を有する症例では鼻中隔矯正術と経鼻的な涙嚢鼻腔吻合術の同時手術を行っている。親子のDNAとは不思議なもので「ア、ウン」の呼吸で手術は実に円滑に行われる。これが妻とだとこうはいかないが、耳鼻咽喉科の妻には術前処置や術後の鼻内の管理を任せて助かっている。大学病院では診療科間の壁があり、なかなかこうはいかない。手術中も娘から耳鼻科的なアドバイスをもらって術式も今なお少しずつバージョンアップしているが、実の子供だと素直に聞き入れられるから不思議である。耳鼻科とコラボしている手術中は小生にとって心地良い時間帯で、子供を医師に持つ者として幸甚であると思っている。人生で活動的に生きられる残された時間は長くないが家族と過ごす時間を最優先順位にして人生を全うできれば幸いである。

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